大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和42年(ワ)7013号 判決 1970年6月08日

原告

白川義信

被告

サンキユウ自動車株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金五五〇万円およびこれに対する昭和四二年七月一四日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの、各負担とする。

この判決は、原告勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。

事実

第一、請求の趣旨

一、被告らは連帯して原告に対し七八九万九九〇四円およびこれに対する昭和四二年七月一四日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

第二、請求の趣旨に対する答弁

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、請求の原因

一、(事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(一)発生時 昭和四〇年一二月一六日午前九時五分頃

(二)発生地 東京都中野区宮園通三丁目二九番地先交差点

(三)  加害車 普通乗用自動車(練五き一四七七号)

運転者 被告

(四)被害車 自動二輪車(練馬あ一八一五号)

運転者 原告

被害者 原告

(五)態様 出会頭の衝突

(六)被害者原告は全身打撲症兼顔面擦過創兼左大腿骨複雑骨折(内臓損傷の疑)の傷害を受けた。

(七)  また、その後遺症として、左足は五糎短縮し、左膝関節は完全に拘縮してしまつた。このため、原告は松葉杖をついて歩行している状態で、就職の見透しもない。

二、(責任原因)

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(一)  被告会社は、加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

(二)  被告岡は、事故発生につき、信号無視および前方不注視の過失があつたから、不法行為者として民法七〇九条の責任。

三、(損害)

(一)  治療費等

(1) 昭和四〇年一二月一六日から昭和四二年二月一八日まで服部外科病院に入院加療した費用二六万九九七〇円

(2) 昭和四二年二月二〇日から同年八月二〇日まで日本医科大学付属第一病院に入院加療したが、七月四日までの費用一二万九九三四円

(二)  休業損害

原告は、右治療に伴い、次のような休業を余儀なくされ二八五万六〇〇〇円の損害を蒙つた。

(休業期間)

昭和四〇年一二月一六日から昭和四四年一二月一五日までの四年間。

(事故時の月収)

原告は株式会社香妃園にコツクとして勤務し、月収五万一〇〇〇円。なお、年二回各俸給一ケ月分の賞与がある。

(三)  逸失利益

原告は、前記後遺症により、次のとおり、将来得べかりし利益を喪失した。その額は六九〇万二〇〇〇円と算定されるが、そのうち三一四万四〇〇〇円を請求する。

(昭和四四年一二月一六日当時) 二九歳

(稼働可能年数) 二九年

(労働能力低下の存すべき期間) 二九年

(収益) 年収 七一万四〇〇〇円

(労働能力喪失率) 三分の二

(右喪失率による毎年の損失額) 四七万六〇〇〇円

(年五分の中間利息控除)ホフマン複式(年別)計算による。

(四)  慰藉料

原告の本件傷害による精神的損害を慰藉すべき額は、前記の諸事情および次のような諸事情に鑑み一五〇万円が相当である。

すなわち、原告には他に収入の道がないため老母すえおよび妻悦子、長男太一(一歳)は原告と共に生活保護を受けるに至つた。しかも、その乏しい経済生活の中から病院生活と家庭生活の二重生活を余儀なくされ、殊に老母すえは、事故後原告の妻悦子が出産のため看病できず又看護人をつける経済的余裕もなかつたため、懸命な看護を続けた結果過労が重なり、遂に肺結核となり、現在国立中野療養所に入院加療中である。

四、(結論)

よつて、被告らに対し、原告は七八九万九九〇四円およびこれに対する治療費支出の日の後である昭和四二年七月一四日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第四、被告の事実主張

一、(請求原因に対する認否)

第一項中(一)ないし(六)は認める。(七)は否認する。

第二項中、(一)は被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことを認める。(二)は否認する。

第三項は不知。

二、(事故態様に関する主張)

本件事故は、原告の信号無視に基因するものである。

三、(抗弁)

(一)  免責

右のとおりであつて、被告岡には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに被害者原告の過失によるものである。また、被告会社には運行供用者としての過失はなかつたし、加害車には構造の缺陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告会社は自賠法三条但書により免責される。

(二)  過失相殺

かりに然らずとするも事故発生については被害者原告の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

第五、抗弁事実に対する原告の認否

抗弁事実は否認する。原告は信号に従つて交差点に進入した。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、(事故の発生)

請求原因第一項(一)ないし(六)の事実は当事者間に争いがない。〔証拠略〕によれば、原告は本件事故による負傷のため、昭和四〇年一二月一六日から昭和四二年二月一九日まで服部外科医院に入院しその間三回手術したが結果が思わしくなく、昭和四二年二月二〇日から六月三〇日まで入院し、その間二月二七日に手術を施行し、更に昭和四五年五月から約一年間の入院治療が予定されていること、後遺症として口頭弁論終結時においては左大腿骨偽関節および左膝関節拘縮があり左足は約五糎短縮していることが認められ、少くとも左足の短縮は回復不能であり、自賠法施行令別表等級の一〇級七号には該当することが認められる。

二、(責任原因と過失割合)

(一)  被告会社が加害車を自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

(二)  被告岡の過失および原告の過失について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場の道路状況および原告と被告岡の進路は別紙図面のとおりであり、衝突地点は同図面×の位置であること、道路はいずれもアスフアルト舗装で制限最高速度は時速四〇粁で交差点の見透しはよくないことが認められ、証人岡本純雄の証言によれば、被告岡は進行方向の信号機Cが未だ赤であるにも拘らず、青梅街道方向の信号機Dが黄信号に変つた際にいわゆる見込発進し、原告は信号機Dが青から黄に変つたにも拘らずそのまま進行したため、衝突したことが認められ、これに反する原告および被告岡の各本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告に「注意」信号(黄信号)無視、被告岡には「止まれ」信号(赤信号)無視の過失が認められ、両者の過失割合は原告二対被告岡八を以て相当と認める。

(三)  右の如く、被告岡に過失が認められるので、他の点について判断するまでもなく、被告会社の免責の抗弁は理由がない。

したがつて、被告らは連帯して、原告に対し次の損害を賠償しなければならない。

三、(損害)

(一)  治療費等

(1)  服部外科入院治療費

前記の如く、同病院に入院したことは認められるが、治療費の額について立証がない。

(2)  日本医科大学付属第一病院入院治療費

〔証拠略〕によれば、同病院の入院治療費として二二万九〇五二円が必要であつたことが認められる。

(二)  休業損害

〔証拠略〕によれば、原告は昭和三五年八月以降中華レストランを営む株式会社香妃園に調理師として勤務し、月五万一〇〇〇円の俸給と年二回各一ケ月分の俸給相当額の賞与を支給されていたことが認められる。ところで、〔証拠略〕によれば、原告の入院期間は昭和四二年六月末日までの一年六ケ月半であることが認められ、右期間以上、休業が必要であつたことは本件全証拠によつても認められない。

したがつて、右期間中の原告の休業損害は、賞与三回分を含め、二一・五ケ月分の俸給相当額一〇九万六五〇〇円である。

(三)  逸失利益

昭和四二年七月以降は、前記後遺症による労働能力低下により次のとおり得べかりし利益を喪失したものと認められる。

〔証拠略〕によれば、原告は昭和一五年一一月一〇日生であることが認められるから、昭和四二年七月には満二六歳であり、原告の職種に照らし以後三四年間は稼働可能であり、労働基準監督局長通牒(昭和三二年七月基発第五五一号)によれば、労働能力喪失率は二七パーセントと認めるのが相当である。したがつて、右期間中の原告の逸失利益から年毎に年五分の中間利息をホフマン式計算方式で控除すると、

51000×(12+2)×27/100×19.55381473≒376万9584円

となる。

なお、〔証拠略〕によれば、原告は昭和四五年五月から約一ケ年入院の予定であることが認められるが、甲第八号証と対比すると、その予定は次第に遷延されておることも認められるので、逸失利益の喪失は直ちには認め難く、右の入院予定は慰藉料の算定において斟酌することとする。

(四)  過失相殺

以上(一)ないし(三)の合計は、五〇九万五一三六円となるが、原告の前記過失に鑑み、被告らに賠償せしめるべき金額は、そのうち四〇〇万円を以つて相当と認める。

(五)  慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告は更に約一年間入院治療が予定きれ、そのために約六〇万円の費用が必要と見積られていることが認められ、右事実および本件事故の態様殊に過失割合、傷害の部位程度その他諸般の事情を総合勘案し、原告の慰藉料は一五〇万円を以て相当と認める。

四、(結論)

よつて、被告らは原告に対し連帯して、五五〇万円およびこれに対する逸失利益算定の基準日の後であり、治療費支払の後でもある昭和四二年七月一四日以降支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるから、右の限度で原告の本訴請求を認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠田省二)

別紙 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例